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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.16 悪魔

DDL「ダンナァ!!ヤッタゼ!!イマノアノオンナハフヌケノヌケガラニナッテボーゼントタチツクシテルゼ。
トドメヲサシニイクナライマダゼ?」
男のもとへ戻ってDDLは自慢げに結果を報告した。
しかし、男は不満そうな顔でDDLの顎をぐいと持ち上げる。
DDL「ンニニニ・・・シュルル、ナニスンダヨォ。」
スーツの男性「お前は詰めが甘いな。ハズレくじみたいな能力だと思っていたが、予想以上にポンコツだ。」
DDL「エエエ・・・ソンナイイカタハネーダローヨ。オレガイナキャミツケルコトモデキナカッタクセニィ。」
スーツの男性「使えない部下というのは、いっぱしに言い訳”だけ”が達者で責任転嫁がうまいお前みたいなやつの事を言うんだよ。」
DDL「チェー・・・ワカッタヨ。グタイテキニナニガタリネェンダ?」
スーツの男性「あの抵抗できなくなった小娘を殺害してこい。」
DDL「ハァー?ダンナ、ルールハリカイシテルカ?ノウリョクシャジシンノコウドウヤノウリョクデトドメヲササナイトカテナインダゼ!!?
ツマリ、ハカイリョクノナイオレミタイナヤツハ、ダンナヲタヨリニスルシカネェンダヨ。」
スーツの男性「誰が”勝つ”と言ったんだよ。お前が周りの人間の”罪悪感”を奪って、”殺人衝動”を呼び起こせばいいんだろうが。
他人を使って殺してしまえば”勝つ”ことはできないが、おそらくは”強制リタイア”になるだろう。」
DDL「シュルル、ダンナァ・・・モウシワケナイケドヨォ、セイミツニ”コジンニムケタサツジンショウドウ”ダケヲツヨクヨビオコスニハ、
モウスコシチカヅイテモラワナクチャナラナインダ。タノムヨダンナ~。」
スーツの男性「仕方ないな。使えない部下を遣えないようでは上司失格だからな。」

枷檻は気絶から覚醒する。
相変わらずの回復の速さだが、やはり少しふらついてはいるようだ。
枷檻「・・・ッ。この野郎・・・能力なんか使いやがって、喧嘩っつうもんはステゴロで・・・ん?」
千代は何も答えずに立ち尽くし、呆然と空気を見つめていた。
クロはとっくにいなくなっていて、出てくるような素振りも見られない。
指先は僅かに震え、どこへと向くその二つの瞳には仄暗い陰りを落としていた。
枷檻「お前・・・これってあの時と同じ・・・でもなんでだ?さっきまであんなにもキレ散らしてたじゃねーか。」
枷檻の脳裏には番長とのいさかいの時の記憶がよぎっていた。
端的に言えば千代は甚大な精神的ダメージを受けると思考停止するのだが、今回ばかりは枷檻には何が起きているのか理解できなかった。
さんざん挑発し、喧嘩をして勝ったなら、鼻をふんと鳴らし相手を踏みつけて去っていってもおかしくないのだ。
しかし、どういうことだか、今の千代の状態は明らかに”負けた人間”だ。
枷檻「一体何がどうなってやがる・・・?」
枷檻は記憶をさかのぼる。
仲間を傷つけてしまった事を悔いているなら極端すぎる。
ついさっき突然態度が悪くなり、あたりかまわずキレ散らし、今はショックで上の空。
付き合いが長いわけではないので、元からそういった”キレてる”人間だったのなら仕方がないのだ。
だが、本当に”もともとそういうもの”ということで解決していいのか?
千代はいつからキレていた?
ゲーセン?商店街?摩利華の家――――
記憶をたどっていくと、摩利華の不可解な行動が蘇る。

摩利華『危ない!!』
枷檻『どうしたッ!!』
摩利華『・・・・・・あら?』
千代『どうしたの?』
摩利華『び、敏感になりすぎていたようですわ。』・・・

摩利華はポストと千代の間を遮断するように飛び出した。
なぜそう思うかというと、摩利華が突然言葉を切った時に見ていたのがポスト辺り、
そしてドアに激突したあとも不思議そうにポストと千代を交互に見たいた。
その時は回覧板が危険な何かだと見間違いしてしまっていたのだと思ったが、千代の態度に違和感が出始めたのはそのあとだ。
摩利華の部屋から出たときにはさして違和感は感じなかったところから、摩利華自身は原因ではないだろうし、
理屈っぽい千代が無意味な八つ当たりをここまで激しくするとは思えない。
だとするとこの状況は・・・??

DDL「ダンナッ、イイカンジノキョリニナッテキタゼ。」
スーツの男性「よし、始めろ。」
彼はコンビニエンスストアに入って、パチスロ雑誌を立ち読みしているフリをしながら、DDLを見守る。
DDLには小型のナイフを咥えさせている。
他人の目に付かないように、上空を素早く飛ぶ。
そして、上からそのナイフを落とし、落下よりも速く直下の会社員らしき男性に乗り移り、上手くナイフをキャッチさせる。
DDL「シュルル、ダンナガオモッタヨリチカクニヨッテクレタカラウゴキガセイミツデヤリヤスイゼ、ン?
アノキンパツ、モウメザメテヤガル。ヤルノハキンパツノウシロ・・・ソシテアノオンナノマショウメンダ。」
会社員は低い唸り声を上げて二人に焦点を合わせる。
獣とかゾンビとか、そういった知性的なものは感じさせない、ロボトミーを受けた殺人マシーンのような様子に豹変している。
殺人衝動に引っ張られた会社員は抜け殻になった千代に向かって一直線に走り出す。
が、異常性を察知していた枷檻は会社員を転ばせ、瞬時に押さえ込む。
枷檻「あの偉そうな電話女とおんなじ方法を使うなんて気に障るが、今回ばかりは感謝させてもらうぜ。」
会社員はそれでも唸り声を上げてやまない。
会社員「ウギガ・・・ガガギゴ・・・」
唸り声が少し変わった。
それを察知した枷檻は思わず仰け反ったが、それが良かった。
会社員の腕はありえない方向に曲がり、枷檻の喉を掻き切らんとしていた。
腕は肘のあたりからねじ曲がり、もはやこれは元に戻りそうもない。
追撃を恐れたが、会社員は既に気絶していた。
気絶したということは何を意味するか?
DDLは次の傀儡を求めて飛び出していた。
次は千代の背後に居る人間に飛び移ろうと考えていた。
枷檻は少し勘違いをしていた。
千代に乗り移って自殺させるつもりなのではないか?と考えていたのだ。
実際にはそんなことはできないが、彼女が心の底から声を出すのはどちらの結果であっても同じだった。
枷檻「千代、あぶねぇッ!!」
大した距離がないために、これが伝えられる精一杯の言葉だった。
千代にその気持ちが届いたのかは解らない。
だが、千代の中で化けの皮を剥がれた黒き意思の輝きが瞬時に目の前の”敵”を捉えた。
千代は眉の一つも動かさない。
その横で、クロのその手はDDLを強く強く握っていた。
陰の落ちた二つの瞳が静かにDDLの方へ向く。
千代「本当に小さい奴・・・人間的に小さいだけじゃなくて、姿かたちも小さいなんて・・・。」
真っ黒く、永久凍土の様に冷たいその眼差しに、DDLは震えを抑えることができない。
千代「さぁ、ご主人様のところに案内しなさい。」
千代はゆっくりと瞬きをして、乾いた瞳を潤す。
DDLはすくみあがって声も出ず、ただ震えてしまう。
千代「焦らしちゃう悪い子は握りつぶしてあげてもいいのよ?」
DDLは慌てて舌をコンビニエンスストアに向ける。
千代「そう、お利口ね。」
クロにDDLを握らせたまま、コンビニエンスストアの前まで行き、男を見つめる。
千代は右手で手招きをして男を誘い出す。
男はもう観念した様子だった。

・・・人気のない公園にやってきた。
表情を一切変えることなく佇む千代。
震えるDDLを握るクロ。
誘われるがままついてきたスーツの男性。
そして、その結末を見届ける枷檻。
真夏の凍てつく沈黙を裂いて千代は言葉を発し始める。
千代「さっきまで私がなんであんなことをしていたのかようやくわかったよ。
このトカゲの能力で”悪いこと”を呼び起こされたんじゃないかな?
それなら、さっき枷檻ちゃんが抑えてくれた人も、”バイパスの狂気”も、全部説明がいくよ。」
スーツの男性は彼女の黒き意思の輝きに萎縮してしまっている。
何も言葉を返すことができない。
千代「私にとっては、”怒り散らすこと”とか、”友達を傷つけること”が悪いことだから、
きっと枷檻ちゃんを傷つけてしまったんだろうって。
もちろん、時には怒りを現すことだって悪いことじゃないんだ。
でも、暴力に頼るのはいけないことだから。
本当に悪いことが何かわかったから――――
あんたにはその”最低最悪”をぶつけてやる。」
今、彼女の瞳に宿ったのはただの怒りではなく、仲間を傷つけて傷つけさせられた、まっすぐな怒り――――

「うだらァ~~~~~~~~~~~~ッ!!」

千代「枷檻ちゃん、信じてくれてありがとう。」
枷檻「いや、本当に信じてたら、喧嘩買ったりしねぇだろ。」
千代「ううん、ちゃんと信じてくれてたから正面からぶつかってくれたんだよね。見限っても良かったのに。
クロに殴り飛ばされるってわかってたんでしょ?なのに最後まで向き合ってくれた・・・。
本当に、ほんっと~に、ありがとう。」
枷檻「バ、バッキャロ・・・感謝の言葉なんてくすぐったいぜ・・・。」
二人には、互いに無意識下の硬い信頼があったことを今、この場所で確かめ合ったのであった。