DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.15 正しき内と悪しき内はいつも彼女と共に有り

千代「摩利華ちゃん・・・。」
摩利華「なんですの~?」
千代「近いんだけど・・・。」
摩利華「いいじゃない・・・やっと二人きりになれたのよ~。」
千代「いや、だからといってずっと絡み付いてくるのはどうかと思うよ・・・。」
ベッドに入ってからというものの、摩利華はずっと千代に抱きついたままだ。
摩利華「だってぇ~、せっかくのお泊まりなんだからぁ~、ふたりっきりで濃密な夜を――――」
と、言いかけたとたん、ハンガーに掛かっていたマントからクロが飛び出し摩利華を引き剥がした。
摩利華「なんてことしますの!!?まったく千代ちゃんったらいけずですわ。」
千代「いけずですわ~じゃないよまったくもう・・・。」
摩利華「ふえぇ・・・もっと千代ちゃんのぷにぷにの体を触っていたかったですわ。」
千代「悪かったなぷにぷにで。」
摩利華「悪くありませんわ!!むしろそれも含めて好きなのですわ。だから・・・その・・・。
私と、お付き合いをして欲しいですわ。それが言いたくて、わざわざ二人になったのですわ。」
千代「ん・・・?私女の子だよ?」
摩利華「承知の上ですわ。」
千代「摩利華ちゃんは女の子だよね。」
摩利華「えぇ。そうですわ。」
千代「あのさ・・・差別するとか、そういうわけじゃないんだけど、私にそういう趣向は・・・ないかな。」
摩利華「そうですわよね。たとえ異性間でも同性間でも愛情は強要するものではありませんものね・・・。」
事実を受け止めつつも、摩利華の表情は暗いものになった。
摩利華「千代ちゃん・・・。正直に言って欲しいですわ・・・。
今、本心ではどう思っていますの?やっぱり、気持ち悪いって思っていますの?」
千代に背を向けるようにしながら、おずおずと尋ねる。
千代「ううん、そうじゃなくて単純に私は男の人が好きだから、摩利華ちゃんは恋愛対象にはならないかなって。それだけ。」
摩利華「・・・・・・・・・」
千代「別に、摩利華ちゃんが同性愛者だからって友達やめたりとか軽蔑したりとかしないし、むしろ好意を受けるのは嬉しいんだ。
だけど、摩利華ちゃんに同性を愛す権利があるのなら、私にも恋人を選ぶ権利はあるのかなって。だから、恋人になることは受けられない。
でも、親友として一生関係を持っているということなら、私は受け入れられるよ。
愛はいつか冷めても、友情は何年たっても消えることはないって思ってるから、恋人になることなんかよりもずっと一緒にいられるって、私は思うよ。
摩利華ちゃんはいい人間だけど、個人的には恋人っていうよりも親友の方がしっくりくるかなって。
やっぱり好きだから、摩利華ちゃんは親友じゃ満足できないかな。
相手が望まなくてもそれ以上が欲しいのかな?
私には摩利華ちゃんがどのくらい私のことを慕ってくれているのかはわからないから、返す言葉は全部知ったような口にしかならないけど、
でも、摩利華ちゃんは私が幸せでいたほうがいいと思うだろうし、私だって摩利華ちゃんには幸せでいてほしい。
だから、その中で導き出した最善の答えが、親友としてずっとずっ~とつながっていることだと思ったんだけど・・・。
・・・・・・・・・・・・どうかな・・・・・・・・・・・・。」
摩利華は静かに涙を流し始める。
摩利華「ずるいですわ・・・。そうすれば互いに笑顔でいられるって、千代ちゃんが望む事なら私もそうでありたいって思うのに、
そうやって受け入れて優しく包み込んでくれる千代ちゃんが好きだから・・・私はそれ以上を欲しがってしまう・・・。
私は優しい千代ちゃんを抱いてその優しさごと抱き潰して我が物にしたがる、最低の女ですわ・・・。」
千代「最低なんかじゃないよ。感情を押し付けちゃいけないってわかっているから、今日もこうして一緒にいられるでしょ。」
摩利華「・・・ありがとう。」
そういって摩利華は千代の胸を鷲掴みにした。
千代「やっぱ最低だわ。」

8月1日(水曜日)。
摩利華「もう行ってしまわれるのですか?拠点にされるなら、滞在してもいいと思いますわ。」
玄関で靴を履き替える姿を名残惜しそうに見ていた。
千代「いいのいいの。両親が心配するし。それに、屋敷の人たちに気を使っちゃうし。」
摩利華「別に私の部屋にいる分には気を使わなくていいんですのよ?」
それでも金持ちの家に自分のような一般人が入ったら萎縮するのが普通だろうがと喉まで出かけたが、
どちらにしろ滞在はしないので言い返すのはやめた。
枷檻「だぁ~いじょうぶだって。私がいるんだから摩利華が過度に心配する必要なんてねぇよ。」
千代(そういえば枷檻ちゃんは摩利華ちゃんの特別な感情については知らないんだっけ。)
千代「摩利華ちゃん、ずっと一箇所にいると敵に特定されやすいだろうから、ちょくちょくくるよ。
だから摩利華ちゃんと枷檻ちゃんに立ち替わり守ってもらうってことでいいかな?」
摩利華「・・・わかりましたわ。」
表情を見るだけでわかるくらいには、枷檻に嫉妬していた。
価値観も距離感も近くて、フランクに打ち解ける枷檻のことを羨ましく思っている一面があった。
だが、その嫉妬はドス黒いものではない。
昨晩の出来事で再確認したが、千代と枷檻が近く見えるのはその関係が”友情”だからであって、
”好意”や”恋人”などといったぎこちない心象に心や体の距離が左右される感情ではないからだ。
ただ、そうだと解っていてもヤキモチくらいの感情は抱いてしまうものであった。
その気持ちを汲んだ千代は、枷檻と摩利華が公正公平になるような案を打ち出したのであった。
摩利華「それでは門の前まで送り――――」
言葉の途中で息をつまらせた。
ポストの隙間から黒いものが飛び出ている。
いや、這い出している。
・・・生きている。
DDL「ミツ・・・ケタゾ・・・!!」
黒いものが千代に向かって飛びかかる。
摩利華「危ない!!」
摩利華は必死でかばおうとしたが、間に合わなかった。
枷檻「どうしたッ!!」
勢い余って摩利華はドアに激突する。
摩利華「・・・・・・あら?」
千代は無傷だ。黒いものの姿も見当たらない。
千代「どうしたの?」
摩利華「び、敏感になりすぎていたようですわ。」
ポストには最凝町会館の回覧板が刺さっていた。
枷檻「ンだよ・・・脅かすなよ。心配する気持ちは十分わかるけどよ。
摩利華もなんか無理してんじゃねぇのか?しっかり食ってしっかり休めよ。」
摩利華「淑女としてお気遣いできるところは尊敬しますわ。」
枷檻「喧嘩売ってんのか。」
摩利華「良家の娘としてその汚い言葉遣いはなんとかなりませんの?」
枷檻「へっ、治らねぇって知ってるくせに。」
摩利華「うふふ、そうね。それが枷檻ちゃんらしさでもありますしね。」
枷檻「へへへ・・・そいじゃあな。ホント、体には気ィ使えよ。」
摩利華「言われなくてもそうしますわ。」
千代「・・・・・・・・・」

亜万宮邸を出た二人だったが、家に帰るのも退屈なので商店街を散策していた。
千代「はぁ~。小腹すいたな~。摩利華ちゃん家でもうちょい朝食多めに食べてくるべきだったかな?」
枷檻「ダイエットだと思えばいいんじゃねぇの?」
千代「うるせー余計なお世話だ。」
枷檻はつい、外なので一人で過ごしているときのようにタバコを取り出して火を付けようとする。
枷檻(いっけね。千代はタバコ嫌いなんだった。)
枷檻は咥えたタバコをしまおうとする。
千代「いいよ、外でくらい。」
枷檻「!!?」
驚きのあまり思わず箱に戻そうとしたタバコが穴を外れて落ちてしまった。
不幸にもそのタバコが最後だったようで、箱をクシャと潰した。
枷檻「せっかくのお許しを頂いたところ悪ぃが、ラス1だった。」
千代「ふぅん。」
枷檻(なんか変だなぁ・・・なんか素っ気ねぇっていうか・・・。)
枷檻は千代の態度に違和感を覚えていた。
商店街を散策し始めてから感じていたのだが、普通、千代みたいな人間がタバコを容易に許すなんてありえないと感じた。
枷檻「お前、今日なんかヘンだぞ?疲れ溜まってんなら、憂さ晴らしにゲーセンでも行くか?」
千代「・・・?まぁ、いいけど。」

二人は駅前のビルの三階にあるゲームセンターに足を運んだ。
千代「ゲーセンっていつ来てもやかましいね。」
枷檻「ま、筐体の前に行けば自分の世界だからお構いなしなんだろ。こーゆー喧騒が好きな奴もいるしさ。」
千代「ふぅん。」
二人はTFDというレーシングゲームのシートに腰掛ける。
枷檻「面白いんだぜ、これ。知り合いがどハマリしてひどく金食われて彼女にどやされたとかなんとか。
私も最近よくやってるんだよ。千代もやってみたら?」
千代「・・・うん。」
大きな音楽の中で聞きづらそうにしながらも返事を返す。
お金を入れて、スタートさせようとした。
しかし、画面にはエラーメッセージが出てしまった。
枷檻「あ゛ぁ゛!!?『店員を呼べ』って?めんどくせぇ~・・・ついてねぇなぁ・・・。」
そういいながら深いため息をついてうなだれる。
その横で千代は立ち上がるなり筐体を蹴りつけた。
そこそこ鍛えられた蹴りに筐体は悲鳴を上げる。
本能的にやばいと思うような音が流れ、液晶に映るテキストも乱れている。
枷檻「オイオイオイオイ、バッキャロ!!ブラウン管テレビみてぇに叩いたら治るっつう代物じゃあねぇぞ?」
千代「わかってるよ。腹が立ったから蹴った。後始末は店員がやってくれるんでしょ?
それで給料もらって、飯食ってるんだから。当然よ。」
捨て台詞のように言いたいことだけを言って店を出る千代。
取り残された枷檻は事態の収拾に追われた。

枷檻「オイ、やっぱり今日のお前、おかしいぜ。」
一悶着終えた枷檻は、一人商店街を歩いている千代に追いつく。
千代「何がおかしいの?枷檻ちゃんだって、ムカつくことはあるでしょ?」
枷檻「そりゃあるけどよ。ものに当り散らすのはよくねぇぞ?ちょっと落ち着いたらどうだ?」
千代「私は落ち着いてるよ!!」
枷檻「それは落ち着いてねぇやつのセリフだ。」
千代「あんたに何がわかるの?さっきからヘンだとかおかしいとか。
知ったような口聞くんじゃねぇよ!!」
もはや今、目の前に立っているのは枷檻の知っている藤原千代ではなかった。
わけもなく怒り散らすただの女であった。
枷檻「どうしてそんなに怒ってんだよ?そんなにさっきのことがイラついたのか?」
千代「うるせぇんだよ。いつも大人しくしてるからっていい気になりやがって。
相手が下手に出ただけで勝ったつもりか?あんたみてぇなチャラチャラした奴はす~ぐ調子に乗る。だから嫌いなんだ。
いっつも夜遅くまで遊んで歩いて、日中深夜室内室外構わず問わずでどんちゃん騒ぎ。近所迷惑なんて考えもしない。
祭りの時にはゴミを散らかして、自分が楽しきゃそれでいい。
あぁいいな、束縛規則とは縁もゆかりもない自由奔放悠々自適な人生は!!」
千代の歪んだ本性が皮を破り、黒くぎらぎらとした姿を露わにした。
枷檻「いい気になってンのはてめぇの方だぜ・・・。
どうせ私たちヤンキーとボンクラやってるチンピラとの区別もつけてねぇんだろ?
私の話なんて覚えてねぇって言うんだろ?
てめぇみてぇに目の前にある現実に立ち向かいもしねぇでビビり散らして縮こまるような奴より私たちヤンキーの方がプライドも尊厳もねぇって、
・・・そう、言いてぇんだな・・・?」
千代「腕っぷしが強いだけでいきがってるような人種に、尊厳も糞もないね。」
枷檻「オイオイ、オイオイ、オイオイオイオイオイオイオイオイ。
今引き下がってくれれば許してやったもんをよぉ、そんな返事で返されちゃなぁ・・・。
売られたからには買ってやるよ。タンカ切られてだまってちゃ恥だもんなぁ!!?」
しかし、結果は枷檻自身もわかっていた。
そしてその通りになった。
千代は情け容赦なくクロを発現させて枷檻を殴り飛ばした。
クロ「なんてことをするんだ・・・というかなんてことをさせるんだ!!?
わざわざ我を使ってまで仲間割れをしている場合ではないのだぞ!!?」
クロは千代から命令が下れば逆らうことはできない。
それが悔しくてならなかった。
千代「・・・・・・・・・。」
急に黙ったかと思うと、千代の背中からクロではない黒いものが顔をのぞかせた。
DDL「シュルル、ヤッタゾ!!ヤッタゾ!!ソウトウダ!!コレダケココロトカンケイヲズタボロニスレバ、ヌケガラニナルニマチガイナシ!!
モトモトハヒトリボッチノサビシイヤツダモンナ?
『セッカクデキタトモダチニヒドイコトヲシテシマッタ』トイウココロノコエガ、オレノシゴトノオシマイヲシラセテクレタゾ!!
シュルル!!カッタカッタ!!ダンナノトコロニイソガナキャ!!」
黒いトカゲトンボもどきはあさっての方向へ飛んでいった。