DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.12 死神13

夜九時前にはそれぞれがそれぞれの家に帰り、千代はベッドについた。
千代「食べてすぐ寝るとまた太っちゃうなぁ・・・。」
クロ「今は無理をして体力の蓄えがなくなってしまう方が、よほど恐ろしい。」
千代「わかってるよ。みんなの応援を、無駄にはしない。」

その後、文化祭が無事に開催されたものの、落ち着くことができずになかなか楽しむことができなかった。
枷檻や摩利華は極力そばにいて千代を励ましていたが、不安を消せぬまま終業式の日を迎えた。
さんざん悩んだが、登校する前に武器を墨汁瓶とパンチングスタンガンだけにした。
パンチングスタンガンは、念のためだ。
淡々と食事を済ませて、千代は家を出た。

学ランの男「やぁ、キミ、動画に映ってた能力者だね。」
正直こんなに早く嗅ぎつけてくるなんて思ってもみなかった。
千代「あ・・・え、ええ・・・そ、そうよ・・・。」
学ランの男「そうか。なら話は早い。」
千代は墨汁瓶を取り出そうとする。
だが―――――
間髪入れずに男から影が飛び出す。
その影は、千代に向かい大鎌を振るった。
一瞬。
ただの一瞬の出来事だ。
千代「――――?」
おかしい。
痛みを感じないし、血も出ていない。
自らの体をかばう千代がそのまま立っていた。
学ランの男「ふふふ♪虚仮威し(こけおどし)かと思ったかい?残念。
君は今、体だけを殺されて幽霊になったんだ。
そう、魂を賭けた臨死遊戯(デス・ゲーム)に参加してしまった。
ボクの能力、誕生を呪う鎌(バースデーキラー)によってね!!!!」
千代(厨二病だ~~~~~ッ!!)
学ランの男「おっと、ふざけていると思っているのかい?
思ったより事態は深刻だぞ?ふふふ♪」
千代「???」
学ランの男「言ったろう?今の君は幽霊だ。”人間”に触れることが出来ない状態になっているんだよ。
故に、ボクにダメージを与えることは不可能!!完全に不可能!!
しかしこれは遊戯(ゲーム)だ。ちゃあんと規則(ルール)を説明しないとね?」
試しに無言でクロをけしかけて見るが、やはりムカつく余裕ぶった顔をすり抜けるだけだった。
学ランの男「ほらほら、ちゃんと規則(ルール)を聞かないと勝ち目がなくなっちゃうよ?
いいかい?二度は言わないからな?
さっき君から、ボクの能力で”誕生日”を奪った。
だから、キミは生まれてすらいない、この世に存在してはいけない”幽霊”なんだ。
君が勝つ方法はただ一つ。
24時間以内に、人に訊く以外の手段で”誕生日”を思い出すことだ。
思い出せなければキミは・・・無残に消滅、ゲームオーバーってわけだ。」
千代「消・・・滅・・・?」
学ランの男「だから言ったろう?事態は深刻だぞ~って。ふふふ♪
じゃあ、せいぜい頑張ってね。
そうだなぁ、キミは困っている顔がとてもかわいいから、ずっと見守ってあげるよ。」
千代「気持ち悪・・・。」
学ランの男「ところで・・・?遊戯(ゲーム)はもう始まってるんだよ?急がなくていいの?」

千代「メモってない・・・。」
家に戻った。
鍵はあったので開いた。
自分の部屋が消滅したわけでもなかった。
そこまでは良かった。
しかし、誕生日というのは暗記しているもので、メモを取ったりしているものではなかった。
しかも友達がいなかったためか、盛大に祝うこともなかった。
学ランの男「浮かない顔だね。ダメだったんだ。ふふふ♪」
家を出ると憎たらしい笑顔で待っていた。
学ランの男「”正義”(ジャッジメント)の奴もおんなじ事をしてたよ。
自宅には、ありそうでないものなんだよね♪あーかわいそーかわいそー。」
千代「あんたねぇ、人の命を弄んでおいてゲームだって?
ふざけないでよ!!人の命をなんだと思ってるの?」
学ランの男「目的を達成するための定石(ピース)だよ。
大体キミだって大した命のことなんて考えてないでしょ。
毎日、新聞の訃報を見て泣いているのかい?それならブラボーと言ってあげるけど?」
千代「感傷を受けるのと人殺しをするのは違うでしょ?一緒にしないで!!」
学ランの男「ぷっははは♪キミは本当に面白い。
この安い挑発で時間を無駄にしてるのにも気づかないんだ。
いっぱいちょっかいかけちゃお~✩ねぇねぇ、昨日の晩御飯は何食べた~?」

学ランの男「あれあれ~?キミは幽霊になっても学校に行くのかい?偉いね~。
将来は立派な社畜だぁ。」
学校に名簿か何かがあればいいと思った。だが、下手に物を動かすと騒ぎが起きてしまう。
安全を考えて、職員室に向かった。
こちらのほうが、名簿が保管してあったりするので確実だ。
というか、ここ以外に心当たりがない。
職員室には、ほかの教員が出入りするタイミングで入る。
あくまでもルールは”人間”に触れられない。言われていなかったが恐らく見えもしないし聞こえもしないのだろう。
だが、”服”には触れてしまう。だから”人間”を無視して入ることはできないのだ。
少し手こずったが、入ることはできた。
しかし、思いもよらぬ壁が立ちはだかった。
名簿は金庫にしまわれていた。
当然のことなのだが、そこまで頭が回らなかった。

学ランの男「ねぇねぇ、調子はどーおー?お腹空かな~い?もうすぐお昼だよ~。ふふふ♪」
自分が寄る場所を片っ端から探してみたが、相手が一層うっとおしくなる以外に成果はなかった。
時刻は12時になる。
と、同時にスマホがなる。
SNSからのメールのようだ。
メール『お誕生日おめでとうございます!!今日ログインするとマイページが特別仕様になってい・・・続きを読む』
千代「あっ・・・。」
学ランの男「???」
千代「勝った・・・。」
学ランの男「はい???」
千代「誕生日は今日、”7月26日”!!思い出したぞ!!」
学ランの男「そんな、デタラメだ、ハッタリだ!!」
千代「じゃあ試してみる?自分の肉体で。」
学ランの男「ストップ!!タンマ!!」
千代「必ず殺せると思って、その他の戦法を考えなかったのが運の尽きよ!!」

「うだらァ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」

千代「目的を達成するための定石(ピース)ねぇ・・・それはあんたのことじゃあないのかな?」
ため息をつく千代。
クロ「そういえばガッコウには行かなくていいのか?」
千代「あ」
終業式はちょうど終わった頃であろう。
スマホが鳴る。
・・・
摩利華「どうしましたの?お休みはまだですわよ?」
枷檻「お前が学校フケるなんて珍しいこともあるもんだな。
周りの奴らはなぜか気にも留めてなかったみたいだけど。
先公も気づいてなかってぞ!!こりゃ教員として恥だな!!笑いものにしてやろうぜ!!」
千代「本当に失礼だね。訴えよう。」
摩利華「ところで何をしていらしたの?」
千代「私を殺そうとしていた能力者に勝ったよ!!」
枷檻「本当か!!?やったじゃねーか!!飯食いに行こう!!祝杯あげよう!!」
摩利華「では私の屋敷で祝いましょう。盛大にもてなしますわ。」
千代「いや、やりすぎでしょ。まだ敵はたくさんいるんだから。」
摩利華「美味しいもの食べて、体を休めないとまた倒れますわよ?」
千代「それならお言葉に甘えて・・・。」
枷檻「おい、体重のことはもういいのか?」
千代「その分戦うから問題ナッシング!!」
摩利華「千代ちゃんはジムにも行っているから平気よ。」
千代「なんで知ってるの!!?」
摩利華「その体型で言えないほどの重さなんて、筋肉がついているとしか思えませんわ。」
枷檻「とにかく、このあと摩利華ん家集合な!!」
摩利華「番長さんも呼びましょう。」
千代「うん、また後で!!」
長い長い不安は、呆気ない幕切れを見せるのであった。