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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.11 結ばれる糸

7月14日(土曜日)。
千代は昨晩摩利華の使用人によって送迎されて帰宅した。
精神面ではほぼ正常そのものまで回復したが、肉体には過度のストレスによる疲労が残っていた。
まぁ、ストレスもそうなのだが、実を言うと単純に生命力が足りない状態にあるのも事実である。
連続して戦闘してしまったばかりに能力を酷使して、ただでさえ脆弱な千代は死にぞこなっていたに等しい。
摩利華が触れた時に体温が低下していたのはそのせいだ。
幸いにも今日は休みなので動かずにゆっくりと生命力を蓄えることができる。
百合恵「熱は・・・ないね。」
流石に今日という今日は浮浪物の妹も外出はせず、看病にあたってくれた。
窓からは夏の朝日が強く差し込んでいる。
百合恵「まだ食事はお粥がいいかな?」
千代「・・・・・・うん・・・。」
千代の意識ははっきりとしているものの、体がそれに上手く反応してくれず、感覚は鈍いものだった。
クロ(千代・・・聞こえるか・・・今はお前の中で話しかけている・・・消耗が大きくなることはない・・・。)
千代(聞こえるよ。心の中でならちゃんと喋られるよ。)
クロ(そうか、ならあとは肉体の生命力を取り戻すだけだ。
やはり、睡眠をまともに取らなかった時期があったのが原因だろう。
食後、すぐに夕方まで睡眠をとれば問題なく活動することができるようになるだろう。)
千代(ホント!!?)
クロ(嘘を吐いてどうする。)
千代(よかった・・・衰弱して死んじゃったりはしないんだね・・・。)
クロ(あぁ。これからは生きるために戦わなければならないしな。
こんなところでくたばっていては本末転倒だぞ?)
千代(そうだね・・・”怯える前にやることがある”からね・・・頑張らなくちゃ・・・。)
クロと会話している間に百合恵はお粥をとってきてくれたようだった。
百合恵「大丈夫?ネーちゃん、まだ生きてる?」
千代は虚ろな眼で頷く。
百合恵はホッとため息をついて、お粥をレンゲで食べさせた。

・・・なんだろうここは・・・。
番長ちゃんがいる・・・。
知らない男の人と話している。
知らない女の子もいる。
でも番長ちゃんとは仲良く会話してる。
変な場所だ。
工場の内装をとっぱらって無理やり居住空間にしたような。
そんな感じ。
いつもクールでニヒルな感じでほくそ笑んでいるのに、
今ここいいる番長ちゃんは、
ニコニコしたり、
怒ったり、
いろんな表情をして、
すっごく女の子で、
楽しそうで、
生きている――――

千代「はふぁ!!?」
夢から覚めて飛び起きる。
間抜けにたれていたヨダレをすする。
外は夕焼け空だ。
どうやら10時間ほど眠っていたらしい。
腕でヨダレを拭う。
体はしっかり動いた。
安堵して胸をなで下ろすと、空腹を告げるサインが静かな部屋に響いた。
千代「朝、お粥だけだったしなぁ・・・。」
なんだかとても長い夢を見ていたような気がしたが、空腹に比べたら”そんなこと”だった。
若干頭がボーッとするが、ベッドから立ち上がり一階のリビングに向かうことに差し支えはなかった。
母親「あら、立って歩いて大丈夫なの?無理はしちゃダメよ?」
千代「大丈夫。寝てばっかりだと体鈍っちゃうし。」
父親「そうか・・・今晩はホットプレートで焼肉焼くんだが、病み上がりに大丈夫なのか?」
千代「よく人がグッタリしてるのに焼肉食べる気になったよね・・・。」
父親「ハハハ、俺の娘なんだから美味そうな食いもんを置いときゃ元気になると思ってな。」
百合恵「それはパパだけでしょ。」
百合恵は遅れてリビングに入ってきた。
どうやらタレを買いに行っていたようだった。
百合恵「”カツゲン”、すぐ飲む?」
百合恵は新聞紙を敷いた上にコップを出す。
千代「当たり前っ。」
久しぶりの家族団欒の食卓を囲うのであった。

スマホを見ると、枷檻と摩利華から何件ものLINE通知が来ていた。
番長からもメッセージが来ていたが相変わらすドライで、そう多くはなかった。
返信すると、僅か10分ほどで駆けつけてきた。
三人は昼頃からずっと亜万宮邸で見舞いに行くべきか行くまいか悶々としながら回復を待っていたようだった。
番長「すまない・・・。」
千代の顔を見るなり、番長は謝罪を切り出した。
番長「お前の感情を汲んでやらず、勝手ばかり言って困らせてしまった・・・。本当に申し訳ない。」
千代「ううん、別にいいの。番長ちゃんは番長ちゃんなりに正しいと思った方法で私を助けようとしてくれたんでしょ?
感情的になって取り乱しちゃった私も悪いから・・・。」
摩利華「仕方ありませんわ。この戦いは、誰にも理解されない戦い。
だから番長さんも貴女に頼るしかなかったんでしょうし、必死になりすぎたために傷つけてしまった・・・。
こればかりはどちらを責め立てたりなんて私にはできませんわ。」
枷檻「っつーかいつまで玄関で話してんだよ。」
千代「あ、そうだ。焼肉まだ余ってるよ?食べてく?」
枷檻「いいのか?」
番長「病み上がりとは思えんな。」
摩利華「ごめんなさい。私は体型を維持するために普段からカロリー計算をして最新の注意を払って食事をしていますので
お気持ちだけ受け取っておきますわ~~。」
女性としての本能が、体中に冷たいものを迸らせる。
枷檻「体重は?」
摩利華「55」
番長「45」
枷檻「39」
千代「みんなしねばいいのに。」
枷檻「なんだ言えないほどデブだったのか。」
番長「デブだな。」
摩利華「ふくよかなのね~。」
千代「あ゛~摩利華ちゃん!!このデリカシーのないまな板どもには肩に食い込むブラの痛みと肩こりはわからないのよ!!」
摩利華「あらあら、うふふ。みんなそれぞれが幸せなように生きればいいのよ。
千代ちゃん、貴女の幸せが好きなものを好きなだけ食べることなら、少しくらい体についたってそれが貴女らしく生きた証拠なのよ。
むしろ下着が食い込む千代ちゃんをずっと見ていたわ♪」
枷檻「えっ。」
番長「えっ。」
千代「なんか後半不穏だったけど私のことをわかってくれるのは摩利華ちゃんだけだよ~。」
ちなみに千代は62kgなのであった。

枷檻「いやぁ、思ったよりずっと元気そうで何よりだな。」
結局枷檻と番長は焼肉をほおばっていた。
摩利華は律儀に麦茶をすすっている。女子力の塊だ。
摩利華は右手でコップを持ちながら、左手でテーブル下の何かを抑えている。
枷檻「んだよ。オイ。」
摩利華「貴女まだ未成年でしょう?いけませんわ。」
枷檻は当然のようにバッグからタバコを取り出そうとしている。
千代「だめなんだよ~。そういうの。」
番長「私も同感だ。それに、千代の両親が『悪友ができた』と嘆くぞ?」
枷檻「わーった。わーかったから。」
暗黙の多数決によって枷檻はタバコを吸わずに終わった。
一通り食事を終えた一同の中で番長は話を切り出した。
番長「ところで、襲われたりした時の策は立てているか?戦闘方法も考えておいたほうがいいと思うぞ。」
千代「そういえば話半ばで終わっちゃってそのまんまだったね。」
枷檻「そうだよな・・・次の戦闘も近いわけだから真剣に考えたほうがいいよな。」
摩利華「私は前回いなかったのでわかりませんが、そもそもの話、対策などしても咄嗟にできないのではなくて?
戦闘方法だけに絞り込んで話をしたほうが円滑ですわ。」
千代「うん。前回は、うだうだ考えても出せなきゃ意味ないって結論だったしね。」
枷檻「結論というか、番長がその意見を言っただけで終わったんだけどな。」
番長「・・・そうだったか?まぁ、あれからしばらく考えたんだが、ひとつだけ持っていて欲しい武器があったんだ。」
千代「え?」
番長「”墨汁瓶”だ。」
摩利華「それって武器なんですの?」
千代「うん。クロはその名前のとおり、黒い場所からしか姿を現せないんだ。
だから、その範囲を広げるために使うんだよ。」
番長「その武器は今まで近距離のみで使っていたクロの活躍を大幅に広げる重要なアイテムとなるだろう。」
枷檻「じゃあ、次の戦闘はその”墨汁瓶”を有用に使った戦い方を心がけていこうってことだな。」
番長「頑張ってくれよ。応援してる。」
千代「ありがとう。・・・そうだなぁ・・・なんかダーみたいな掛け声が欲しいなぁ~。」
摩利華「私は”ぱにゃにゃんだー”っていうのを使っていますわ。異国の言葉で、そのまま”頑張れ”って意味ですわ。」
千代「なにそれかわいい!!」
枷檻「・・・」
番長「・・・」
千代「なんで黙るの?やろうよ~。」
枷檻「・・・ま、まぁ、千代がやるって言うなら。」
番長「士気を上げるためなら・・・か。」
摩利華「じゃ、せ~のッ。」
一同「ぱにゃにゃんだー!!!!」
それぞれ互を想う気持ちがひとつになった瞬間であった。