DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.10 心とココロ 

亜万宮低に着く頃には泣き止んだが、まぶたは赤くしっとりとしていた。
門にはSPらしきいかついスーツの男が二人立っている。
いかつい男A「おい、そこの。屋敷になんの用だ。」
枷檻「私は摩利華とは古い知り合いだからよ、会いに来てやったんだよ。」
いかつい男B「知り合いだと?名前はなんという。」
枷檻「小鳥遊枷檻だ。そして、このくしゃくしゃになってるのが私の友人の藤原千代だ。」
いかつい男A「藤原千代?あぁ、お嬢様が招待なさった・・・って小鳥遊!!?こ、これは失礼いたしました。」
いかつい男B「余りにもご成長が目覚しいもので、気がつきませんでした。
確かにこれだけ時間が空けば”古い知り合い”ですね。ご無礼をお許しください。」
枷檻「堅苦しい挨拶なんていいから通してくれりゃあいいんだよ。用があるのは摩利華だけだ。」
いかつい男A「し、失敬。それでは案内の者をお呼び致します。」
いかつい男はスマホで使用人を呼びつけた。
来るまでに3分とかからなかったが、一体枷檻は何者なのだろう。
爽やかで好青年な使用人に案内されて摩利華の私室にたどり着いた。

摩利華は小説を読んでいたようだったが、顔を上げて千代の状態を伺うと表情をこわばらせた。
摩利華「どうなさいましたの!!?焦燥し切っているではありませんか!!」
駆け寄る摩利華。
千代「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私、殺されちゃうかも知れないんだって・・・。」
摩利華「いきさつがわかりませんわ?もう少し説明してくださいまし。」
摩利華が千代の手を握るが、その手は冷たくなり小刻みに震えていた。
明らかに精神だけでなく肉体の容態も悪くなりつつあるのでベッドに寝せることにした。
不眠まがいになるほど戦いに不安を抱いていた彼女は、
再び現実を突きつけられて今はタンクローリーからホースでストレスを流し込まれているような状態で、とてもまともな精神状態ではなかった。
枷檻と摩利華は番長に連絡を取り、自体の全容について説明を受けた。
摩利華「”消滅”・・・そして”記憶の改ざん”・・・。」
枷檻「まったく正体が掴めねーな・・・。」
番長「・・・千代の様子はどうだ。」
枷檻「グッタリしてる。上の空で、会話もかろうじで出来るかどうかって感じだ。
っつーか、お前千代にどんな言い方をしたんだ?」
番長「そのまま伝えただけだ。」
枷檻「てめぇなぁ!!物事には言い方ってもんがあんだろ!!
もうちょっとゆっくり説明してやりゃあその場で相談のひとつやふたつできたんじゃあないのか!!?
”自分の命が狙われてます”なんて事実突然伝えられたらパニクるに決まってんだろ?
確かにそれぞれのアルカナ能力には殺傷能力は十分にあるし今までその可能性から逃れられていただけでも奇跡かも知んねぇ・・・。
けどよ、”正義”の暗示の能力者はなんの抵抗もできないまま消滅させられたんだろ?
そんなこと言われたって千代に一体何ができるんだ?
千代もアルカナ能力があるとは言え、10日ぐらいまえまで普通の女の子だったやつだぞ?
屈強な野郎でさえも正体不明の能力で自分が消されそうなんて証拠を並べられたら怖いに決まってんだ。
少しは相手の気持ちも汲んでやったらどうなんだ??」
番長「すまない・・・いち早く伝えなければと焦ってしまったんだ・・・。
命の危機が訪れていることを悠長に伝えてはいられないと・・・。
ただそれは私の手前勝手な事情だ。」
枷檻「これからは気ィつけやがれ・・・千代は強大な力を手に入れても相手を生かしておくような甘ちゃんで、優しくて、か弱いんだ。
私たちの誰よりも決意は固く、そして傷つきやすいんだ。
・・・しばらくは私の電話に連絡を入れろ。
すぐに千代に連絡をとっちまったら感情的になって突き放しちまうかもしれねぇ。」
番長「・・・わかった。」
電話は切れた。
枷檻「そういえば一度アルカナ能力持った奴はクロが見えるんだった。」
摩利華「クロ?」
枷檻「千代の能力だ。クロは能力者にしか見えねぇが、私に見えるってことは摩利華にも見えるはずだ。」
ベッドの上で伸びている千代のもとへ戻る。
枷檻「おい、クロ!!聞こえるか?千代の容態はどうなんだ?」
クロ「すま・・・い・・・生・・・りず・・・我・・・る・・・で・・・ない。」
クロの声は小さく断片的なものだった。
枷檻「クソッタレ!!全然聞こえやしないじゃねーか。」
摩利華「”すまない、生命力が足りず、我は出ることができない。”」
枷檻「!!?」
摩利華「昔から聞き耳を立てるのは得意でしてよ。・・・といってもこの聴力はただの先祖代々の遺伝なのですが・・・ね。」
摩利華は千代の頬を撫でる。
摩利華「可哀想・・・。こんなにも震えていますわ・・・。ふふ、介抱を頼んだつもりが、私どものほうが貴女を介抱しなくてはいけませんわね。」
摩利華がスマホで連絡を入れるとすぐに常時在中の医師と看護師が駆けつけ、担架によって医務室へ運ばれた。
医師「彼女の今の状態は、過剰なストレスによる不整脈、意識混濁に陥っています。
ストレスの原因が今ここになければすぐにでも回復しますが、フラッシュバックによるパニック障害が残る可能性があります。
とにかく、カウンセラーを呼びつけておりますので、一時的に隔離させていただきます。」
ふたりは「すぐに」という言葉の匙加減にもどかしさを感じたが、治る見込みがあるのなら待つことは大した苦ではなかった。

夕方になって千代の家族が押しかけてきた。
母親「千代は?千代は大丈夫なのですか?」
医師「落ち着いてください。今千代さんにはストレスを与えないことが大切なのです。
徐々に快方に向かっておられますので、安静にしていれば心配はございません。」
父親「ストレス、か・・・。」
両親は娘の異変に気づいてあげられなかったことを気にかけているようだ。
百合恵「ネーちゃんがパパやママに言えないようなことが何かあるのか・・・。」
家族の元へカウンセラーが戻ってくる。
カウンセラー「千代さんの容態は落ち着きましたよ。
対応が早急だっため、喚き散らしたり暴れだすようなことはありませんでした。
ただ、今も何かにおびえている節はありますが・・・。」
視線は自然と枷檻のほうに向く。
枷檻「オイオイオイオイ、人を見た目で決めないでくれよ。
千代のもとに行けばわかる。ストレスの現況じゃなければおかしな反応を起こすことはないだろ?」
隔離されていた千代のもとに向かう。
そこは普段は使われていない客人用の寝室だった。
百合恵「ネーちゃん!!」
堪え切れず百合恵は千代に飛びつく。
千代「・・・・・・百合恵・・・・・・心配かけちゃって・・・ごめん・・・。」
両親「千代!!」
家族は安堵した反面、焦燥した表情の千代に不安を隠せなかった。
千代「お父さん・・・お母さん・・・枷檻ちゃん・・・摩利華ちゃん・・・・・・。」
正常に会話できる状態にあるものの、その表情はどこか遠くを見つめているようであった。
母親「千代、一体何があったの?こんなになるまで黙っていたなんて・・・
一緒に考えてあげるから、教えてちょうだい?」
しかし、千代は首を横に振る。
千代「いいの・・・・・・これは私の問題・・・私の戦いだから・・・。」
無理に笑おうとしたのか、ひきつった顔から空気が漏れる。
千代「それに私には枷檻ちゃんも摩利華ちゃんも・・・番長ちゃんもいるから・・・みんな不器用だけど、私の”友達”だから・・・。」
摩利華「あらあら、会って日が浅いのに友達認定されるなんて嬉しいですわ。」
摩利華は目頭の腫れた部分を照れくさそうになぞる。
千代「あんな酷いことをしたのに許してくれて、しかもこんなに手を尽くしてくれるなんて、突き放したら私が悪者だよ。」
言葉に感情が戻ってゆく。
父親「千代、何があったのかは知らないが、困ったときは家族に頼ってくれていいんだからな?
このお金持ちのお嬢さんより非力かもしれないけど、できることで精一杯支えてあげるからな。」
千代「・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・。」
今度はしっかり上手に微笑んだ。