DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.8 女教皇

流石に5時限目、6時限目と教室でドンパチやるなどという暴挙に出ることはなく、
緊張を帯びた精神のまま、授業をやり過ごした。
問題はこのあとだ。
真っ先に帰路に着こうとせかせかと帰る準備を済ませる。
枷檻の担任の帰りの会はさっぱりしていて短いので半ばフライングで廊下に既に待機している。
千代は廊下側、摩利華は窓側だ。
距離でゲインしている上に取り巻きがいないので出るのは容易い。
帰りの会が終わる。
挨拶を終えるとともに早足に教室を出る。
ここまでは計画通りスムーズに来ている。
実は5、6時限目の間にLINEで枷檻と作戦を立てておいたのだ。
とは言うものの単なる不意打ちで、特別なものではない。
ようは「相手が能力を使う前に潰す」という短絡的なものである。
半ば賭けのようなものでもあるが、今はそれくらいしか思いつかなかった。
摩利華は取り巻きが粘着して帰るせいかこのクラスのみならず、学校中で有名人だ。
故に帰るルートは枷檻が大体把握していた。
酷い粘着野郎は家まで送り届けるので住んでいる場所まで知っているそうだ。
帰りのルートの中でも一番人気がない場所かつ隠れる茂みがある場所を選んでそこに身を潜めた。
枷檻「おい、大丈夫か?息が上がってるぞ?」
千代「はあ・・・はぁ・・・・・・ゲホッ・・・だ、大丈夫・・・。」
先回りしようと急いだせいで千代は戦う前から消耗していた。
マントを着ているせいで、肌にはじっとりと汗がにじんでいた。
タイツも湿ってしまい肌に張り付いて独特の不快感を出している。
脱水症状を気にかけながら待っていると、複数の足音が近づいてきた。
ガヤガヤとしていると思いきや、不揃いな足音が大きくなっていくだけで、他に目立った音は立てていなかった。
まぁ、取り囲んでいるにしても対象は一人の女性であるから話題も尽きてしまうものだろう。
茂みの隙間から外を伺う。
摩利華がひとり前を歩いているが、足音から察するに少し後に取り巻き達がついてきているようだ。
摩利華の姿が前から後ろへと変わっていく。
枷檻「ゴー!!」
とても小さな声で千代の耳元にサインを送る。
茂みから飛び出す。
振り返る隙を与えぬように間髪入れずにクロのパンチを繰り出す。
摩利華の振り向きざまにパンチを食らわせられると確信した。
が、パンチを止めたのは意外なものであった。
顔まで覆う水色の全身タイツを着た男性・・・?がクロのパンチを受けている。
全身タイツを着ているおかしな人間はよろめく。
摩利華「あらあら、おどろきましたわ。ここまで強烈な怪力ぱーんちが来るとは思いませんでしたわ。」
摩利華は余裕の表情で日傘を差す。
摩利華「こんなところで戦ってしまってはお肌を焼いてしまいますわ。」
挑発的な態度を取る摩利華を複数人のタイツ人間が囲う。
タイツ人間の体格はどれも男のものに見える。
千代「もしかして・・・このタイツ人間の正体は・・・。」
枷檻「取り巻き野郎共ッ!!」
摩利華は傘を持った手でぴちぴちと拍手する。
摩利華「ご名答♪彼らはいつも親切にして下さるクラスメイトの方々ですわ。」
千代「でもおかしい。ルールでは、”アルカナ能力者でない人間が意図的にダメージを肩代わりをした場合、
ペナルティとして強制的に12時間能力を使用不可能にする。”っていうルールがあったはず・・・なのに彼らは操られたままなのはどうして?」
摩利華「あらら~?厚着の貴女はオツムの方がよろしくなくて?操るだけなら電波でもなんでもよろしくてよ。
わざわざ体を覆うようにしているのは、彼らのどこに触れても、それは私の能力・・・つまりルール違反はしていないということですのよ?」
枷檻「理屈臭いがとにかく取り巻き自体が能力だっつーことか。」
摩利華「部外者の方のほうが飲み込みが速いですわね~。
そう、これこそが私の”女教皇”の暗示の能力・・・”虜になった男たち(ワンダーリビングデッド)”よ!!」
千代「え!!?能力って名前あるの??」
枷檻「食いつくのそこォ!?」
クロ「実質的に個体の名前は存在しないな。あるのはアルカナ名だけだ。」
摩利華は顔が赤くなる。
摩利華「ふぇ!!?こ、こういう能力というのは名前をつけたりするものではありませんの?」
枷檻「千代の能力みたいに人格があるならまだしも、私が持ってた能力みたいなのに名前なんて付けてもしょうがねーよな?」
千代「厨二乙。」
摩利華「んにぃ~~~~ッ!!怒りましたわ!!貴女がたがなにを言おうが私が今優位に立っていることにはかわりないというのに、
いっぱしに挑発してくるなんて許しませんわ!!」
千代、枷檻「逆ギレだーーーーー!!」
しかし、摩利華の言うとおり相手の数が単純に多いため、千代はいつもの手に走るのであった。
枷檻「お前いっつも逃げてんな!!」
千代「なりふり構ってられないよ!!」
摩利華「お待ち!!絶対に許しませんわ!!」
幸いにも摩利華自体は速くなく、能力も本体との距離に依存するのだろうか、深追いはしてこなかった。
千代「はぁ・・・はぁ・・・はぁはぁ・・・ッあ゛~・・・う゛っ・・・っはぁ・・・はぁ・・・。」
枷檻「アイツ頭日が昇っているように見えて案外頭が切れるぞ。
無駄な労力を消費しないように深追いはしてねーみたいだ。」
千代「明日・・・はぁ・・・に・・・なれば・・・はぁ、はぁ・・・学校で・・・会・・・える・・・はぁ・・・から・・・ね。
そっちの・・・方が・・・はぁ・・・確実・・・だからじゃ・・・ないかな・・・。」
枷檻「お前体力ないなホント・・・。」

千代はまともに戦って勝ち目はない。
摩利華は逃げられたら手が及ばない。
互いに決め手を失っていた。

7月12日(木曜日)。
学校で戦闘を起こしてしまえば停学をくらいかねない。
保守の考えが互いを緊縛させていた。
そして帰りの会
担任「・・・ということだ。明日からよろしく。
そうそう、今度の文化祭の資料なのだが、先生たちは職員会議で手を出せないんだ。
申し訳ないがひとり代表して残ってくれないか?」
千代(そういう作業っていうのは作る人と確認する人と二人でやるもんだよ・・・。ん?”ひとり”・・・?)
千代「せ、先生、摩利華ちゃんにやってもらっては、ど、どうでしょう?
だ、男子からの信頼も、その、得ていますし、しっかりやり遂げてくれると思います!!」
摩利華(???)
膠着状態になった戦いにイニシアチブをとったのは千代だった。
担任「・・・というこのなのだが、かまわないかね?亜万宮さん。」
摩利華「・・・え、ええ。よろしくてよ。」
担任「では、よろしく。出来によっては単位もあげておくからな。がんばってくれ。」

摩利華はパソコンを使い資料作りに明け暮れた。
摩利華「まったく、あの子はなんのつもりですの?八つ当たりも甚だしいですわ。」
様々な教養を得たお嬢様の摩利華にとって資料作成など苦ではなかったが、
なぜ千代がこの役に自らをを選んだりしたのか疑問でならなかった。
取り巻き「ごめんな~。俺、こういうの詳しくねぇから、手伝ってやれねェんだ。
それに自分のグループの文化祭の準備もあるからさ、みんなも帰ったか、作業に追われてる。
俺もそろそろ買い出しに行かなきゃいけないし・・・今日は誰も送ってやれないけど、気をつけて帰れよ。」
摩利華「お気持ちだけ受け取っておきますわ。私の心配はしてくださらなくて結構ですので、ご自分の心配をなさって。」
取り巻き「わり、じゃあな。」
最後の取り巻きがパソコン室を出る。
摩利華「はぁ、これだけの資料に手をつけていないなんて、高校教師というのは無能ですわ。
でしたら、うちの使用人を教師として派遣したほうがよっぽど立派に職務にあたってくれますわ。」
文句を垂れながらも作業に精を出す。
しばらくすると、パソコン室の扉が開けられ人がひとり、入ってきた。

千代「忙しそうね、摩利華ちゃん。
この勝負、私の勝ちよ。
オツムが弱かったのは、摩利華ちゃんのほうだったんじゃないかな?」
摩利華「!!!!」
千代は摩利華の方へ迷わず進む。
そう、千代は摩利華の周りから取り巻きがいなくなる瞬間を狙っていたのだ。

千代「誰かが守ってくれるって、慢心したのが運の尽きよ!!」

「うだらァ~~~~ッ!!」

容赦ないラッシュが端正な顔をたたきつぶした。