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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.6 潜む視線

7月9日(月曜日)・・・。
昨晩は警告通り十分な睡眠をとり、久しぶりの健やかな目覚めである。
クロ「今日も学校という場所に行くのか?」
千代「うん。そうだよ。」
着替えながら会話をする。
もっともパジャマなんていう面倒なものは持っておらず、下着にシャツを羽織るだけか、もしくはスウェットだ。
誰も見てないからいいじゃんと態度が言っているのであった。
クロ「外に出るリスクをおかしてまで学校とやらに行く必要があるのか?」
千代「学校は休んだほうが目立っちゃうからダメなの。」
クロ「そうか。自然に動くことで他の能力者に目をつけられるのを防ぐのだな?」
千代「そういうこと。」
着替えを終え、バッグを持ってリビングに行く。
すると朝食は意外なものであった。
千代「ちょ、なんで赤飯なんて炊いてんの!!?何かいいことでもあったの?」
母親「あったじゃない・・・いいこと。」
両親が満面の笑みで千代を迎えている。
明らかにいつもと違う待遇である。
父親「千代が・・・千代がやっと友達を連れてきたんだ・・・祝わずにはいられないだろう・・・。」
その涙を拭うふりをする仕草からは、どれだけ千代のぼっち生活を嘆いていたかが見て伺えた。
母親「ふふ、あなたったら・・・心配しすぎよ。
私はちゃあんとこうやって友人とともにいる千代を見られると信じていたわ・・・。」
誠に遺憾である。
赤飯を炊いている時点で今まで心配でたまりませんでしたと言っているようなものだ。
父親「パパはね、いきなりおかしな男をボーイフレンドですって連れてきても許せちゃうくらい心配したんだよ?
ボーイフレンドだってフレンドついてるからいいやって思える頃合いだったんだよ?」
母親「まったく・・・友達より恋人の方がハードルが高いじゃないの・・・。」
親の期待を裏切らなかった点はいいことなのだが、やはり釈然としないのもまた事実であった。
友達が出来た程度で赤飯を炊かれてしまっては、恋人が出来た暁にはきっと朝っぱらからオードブルだろう。
だが、そんなことを祝えるような平和な家族であったことは心の救いであった。
母親「この前の玄関での電話も、友達ができたのが照れくさくて隠してたのね?
照れ屋さんだなんて誰に似たのかしらね~。」
千代「あ、あぁ、そうそう、あははは・・・。」
あれはクロと話していたのだが、そういうことにしておかないと色々と心配されるのでただすのは自重した。
千代は赤飯を平らげ、トイレに向かった。
健康的な睡眠をとったためか久しぶりの便意をもよおしていたところであった。
千代「?」
トイレのドアは開かない。
まさかとは思った。
千代「百合恵?もしかして百合恵?もしかしてのもしかしてトイレの中で寝てるの?」
二階の百合恵の私室に向かったが案の定いなかった。
この時間は寝坊確定の朝の睡眠をしていないとおかしいので、帰ってきていないなんてことはなかった。
タイツを履いているために滑りそうになりながらも一階のトイレに戻る。
前までは二階にもトイレはあったのだが、水道管を修理していないために使えないので、事実上トイレはここ一箇所なのである。
そして勢いよくドアを叩く。
千代「そこで寝ちゃダメだってば~!!起きて起きて~!!」
ようやく目を覚ましたのか、トイレのドアが開く。
が、そこからは悪臭が立ち込める。
百合恵「大人の味は・・・まだ早かったね・・・。」
とても酒臭い妹を受け止め、あぁ今日もまた遅刻かと瞳を潤ませた。

妹の惨事はすぐに親の目にとまり、遅刻はやむをえんと学校に連絡を入れておいてくれた。
まぁ、そんなことをせずとも気配のない千代は何事もなく学校に行けるわけだが、
連絡を入れておいたおかげで安心して用を足すことができたこともあり、一概にいらないこととは言えなかった。
遅刻が伝わっているために安心して登校していたところ、枷檻と鉢合わせする。
枷檻「お、千代じゃん。おはよ。」
千代「あれ?枷檻ちゃんも朝何かあったの?」
枷檻「いや、別に?」
なぜナチュラルに遅刻しているのに余裕綽々なのだろうか。
千代「あれ?枷檻ちゃんも遅刻だよね?」
枷檻「うん。」
千代「うん。じゃなくてさ、それで進級大丈夫なの?この前も遅刻してたよね?」
枷檻「そーゆー千代だって遅刻じゃんかよ。」
千代「私は成績上位だからいいもん。もしかして枷檻ちゃんも隠れた秀才?」
枷檻「お前自然に失礼だよな。頭悪いのは間違ってないけど。」
千代「いや、見た目で決めたとかそういうんじゃなくて、いっつもバイトとかしてるから勉強してる暇なんてないんじゃないかなと思って。」
枷檻「あー確かに。バイト行くかチンピラどもに喧嘩売りに行くかのどっちかだからな。」
千代「喧嘩なんてやってるの?ダメだよ、そういうの。」
千代は頬を膨らませプリプリと怒る。
枷檻「アルカナバトルだってさして変わらんだろ。」
千代「あのね、今までは即死させてくるような能力者に当たらなかったから良かったものの、
一触即発!!当たれば死あるのみ!!って能力者に当たったら暴力の一つや二つだってするし、
アルカナバトルの相手にはこちらが何もアクションを起こさなくても明確な敵意があるわけだから
何もせずに無抵抗でやられてくださいなんて言われても納得できないし、
相手から手をあげてくるなら正当防衛よ!!正当防衛!!
自分の体や命を守るために戦うの!!
ただ殴り合ってスカッとするだけの喧嘩とは違うの!!わかる?」
枷檻「殴りあうのはダメだっていうのに自分のことは理屈こねて正当化すんのな。
喧嘩だって舐められねぇように、自分の尊厳とかプライドを守るためにやってんだよ。
無意味に殴り合いを楽しんでるわけじゃねーんだ。
目上のチンピラ狩れば、大抵のやつには舐められない。少なくとも、この街ではな。
理屈は違うかもしれねぇが、自分の体守るために戦ってんのはお前とおんなじなんだよ。」
ふたりは互いに生きている環境が違っていた。
それだけだった。
枷檻「そういえばお前は勘違いしてると思うが、私は弱い奴には手をあげねぇぞ?」
千代「え?あたりかまわず殴り散らしてるのかと思ってた。」
枷檻「やっぱりな。そんなんだと思ったよ。
そいつはただの偏見だ。私は”ヤンキー”でいるつもりだ。
弱いものいじめをしたり、千代みたいな喧嘩をしねぇような奴に手をあげたりする奴はただの半可臭ぇ”チンピラ”だ。
私たち”ヤンキー”は常に上のモンに立ち向かって自らを高める人間なんだよ。
弱い奴をいじめてるように見えるのは、売られた喧嘩を買ってやった時だけだ。
相手にとってこっちは上なんだから、立ち向かってくる奴を拒むのは相手のプライドを踏みにじるってもんだ。
・・・無差別にぶん殴るのが脳なわけじゃあないんだよ。」
体育教師「そうかそうか~。じゃあ次の相手は先生だ!!職員室に来い、常習犯!!
あ、藤原さんは連絡もらってるよ~。やんちゃな妹を持つと大変だねぇ。」
話しながら移動していたらいつの間にか校門前に着いていた。
枷檻「ンだよ先公、まぁたお前かよ!!うっせえなぁ~!!」
教師に殴りかからないあたりはわきまえているようであった。
千代(なんだかんだ言って停学は怖いんだろうな~。)

朝はどんちゃん騒ぎであったが、学校はいつも通りであった。
枷檻は千代とは組が違うようで、授業では一緒ではなかった。

枷檻「千代~帰ろうぜ~。今日はバイトないしぃ~。」
帰りの会が終わる前に堂々と顔をのぞかせてくるあたりDQNの鑑だなと思った。
当然枷檻に視線が集まるが、その理由は帰りの会が終わっていないという点にはない。
枷檻はガラが悪いために周りが距離を置く存在である。
それが故に友達を呼ぶようすも奇々なるものであるし、陰キャラである千代のことを名指しするのだから要らぬ心配まで及ぶのである。
隣の席のクラスメイト「藤原さん・・・大丈夫なの?カツアゲされたりしてない?危ない目に遭ってたらいつでも相談に乗るからね?」
そんな根も葉もない疑いをかけられても困るし、たとえそうだとしてもこう言う奴は大抵何もしてくれないのでどちらにしろ流すのが一番である。
朝の会話もあってからか、いい人ぶって自分を守るクラスメイトよりも、
戦うことで自分を守る枷檻の方がカッコイイのではないのかとさえ思ってしまった。
無論、その隣の席のクラスメイトが本当に自己犠牲を厭わない聖人だったりする可能性もゼロではないしいい人ぶってるつもりもないかもしれないが、
孤独な千代の価値観は僅かに歪んでいた。

帰り道、千代はたまに寄り道をする。
131(サーティーンワン)アイスクリームという全国にチェーン店舗を展開している、有名なアイスクリーム屋さんだ。
千代はここのアイスが大好物なので寄らずにはいられないのである。
枷檻「こんなもん食ってるから太るんじゃねぇのか?」
現実は無慈悲である。
千代「気にしてたのに・・・気にしてたのに・・・。」
店の前で図星を突かれた千代はたじろいた。
しかし、自動ドアが反応してしまい「仕方ない」と言い訳をつけて誘惑に勝てなくるのが女心なのかもしれない。
店内には帰りの学生が溢れているが、利便性の悪い観葉植物前の席はいつもどおり空席だった。
ここは千代の特等席と化している。
入店すると、店内はいつもと違う雰囲気に包まれていた。
いつもなら調子のいい学生たちが血気盛んに騒いでいるものだが、今日はこっちの方を伺っては小声で会話をしている。
千代(え~・・・なにこの古風なイジメは・・・しかもわざわざアイス屋で・・・。)
なんて思っていたがこの物々しい雰囲気の原因は枷檻にあった。
喧嘩をしたりしてチャラチャラと夜をほっつき歩いたりしているような人間なら、
数々の屈強な男どもをねじ伏せてきた枷檻のことを知らないことはないだろう。
千代はもちろん枷檻がそこまで喧嘩上手だということは知らない。
千代(あぁ・・・めっちゃ見られてる・・・今日は死にたい・・・来なきゃよかった・・・帰りたい・・・。
目立つのは一番したくないことなのに・・・!!)
おどおどとしてしまう千代の様子を見て不思議そうな目をする枷檻。
チャラチャラとした男子学生A「おいッ・・・バカッ・・・ジュン・・・席を移動しろ!!タク!!お前もだ!!奴に目ぇ付けられたら命ねぇぞ?」
ぼそぼそと窓際のの席から聞こえる。
そこの席は明るく、トイレや自動販売機も遠くはないため店内では良い方の席だ。
タクと呼ばれた男子学生「偉そうに座っててサーセンッ!!枷檻さんッスよね!!
どぞ、この席座ってくださいッス!!手前らはおいとましますんでッ!!」
ビビリながら席をすすめる男子学生。
「手前ら」なんて使ったこともないような言葉を吐いているあたり本気でビビり倒しているのだろう。
枷檻「おっ、サンキュー。」
枷檻は何事もなかったように座る。
続いて千代も周りの顔色をを伺いながら隣に座る。
1テーブル5席あるこの席に、混雑しているにも関わらず枷檻と千代二人で座っている異様な光景となった。
千代「何?一体何が起きてるの?」
状況が理解できず軽くパニックになる千代。
枷檻「あぁ、これはちょっとした副産物だよ。
舐められねぇようにせんとしたら雑魚にビビられるようになっちまって。
確かに馴れ馴れしいのは嫌だが、必要以上にビビられても正直私はそこまで望んでなかったんだけどな。
ま、でも私はこれが当たり前だからなんで千代までビビる必要があるのかとは思うよ。」
メニューを読みながら淡々と話す枷檻。
千代はナニヲイッテイルンダコイツと思うほかない。
いくら成り行きでできた産物とはいえ、こんな緊張した雰囲気で好物を食べたりはしたくないものだ。
注文を済ませ、品物を待っていると番長から電話が来た。
すぐさま会議モードに切り替え、三人で話せるようにした。
千代「なした?」
番長「?」
ついうっかり方言が出てしまった千代は赤面した。
枷檻には伝わるので油断していたが、思った返答が帰ってこないということはおそらく番長は地元住民ではないだろう。
枷檻「どうしたのかと聞いてんだよ。」
番長「・・・あぁ、すまない。この辺の住人は”ナシタ”とか”ドッタ”とか言ってくるもんだからどういう意味なのかわからなくてな。
今すっきりした。・・・と、要件はな。
情報提供だ。千代たちの学校に、もうひとり能力者がいる。」
千代「!!!?一箇所に集まりすぎじゃない??」
番長「いや、そいつはおそらくたまたまこの街に引っ越してきたのだろう。
能力を手に入れたのがそれ以前かここに来てからかはわかりかねるがな。
手に入れた情報によると、そいつの周りでは”記憶が抜け落ちた生徒”が出ているらしい。
だから、おそらくは能力者なのではないかと推測した。」
千代のクラスには引っ越してきた生徒なんて一人しかいなかった。
前の学校のブレザーを着ているうえにいつも男子生徒が取り巻いているのですぐにわかる。
千代「クラスのマドンナ・・・亜万宮摩利華(アマミヤマリカ)ちゃん・・・きっと彼女が能力者なんだ・・・。」
枷檻「心当たりがあるのか?じゃあ、早速ぶっ潰しに行くか!!」
番長「はぁ・・・まずは相手の能力について考えてからにしろよ単細胞。
もしかすると”記憶操作”を行ってくる可能性があるから、
不用意にその心当たりの人物の前で目立たないことだ。わかったな。
私は用事があるのできるぞ。伝えたいことは伝えたからな。」
通話が切れる。
枷檻「ンなろぉ~ッ!!言いたいことだけ言いやがって・・・クソッタレ!!
今度あの偉そうな顔に拳を叩き込んでやるッ!!」
猛者の喧嘩宣言に周りが恐怖にざわつく。
千代「お願いだからこれ以上目立つことはしないで・・・。」
うなだれる心の中、あまりに近くにいた敵の存在に不安が肥大していった。