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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.2 戦車

7月4日(水曜日)・・・
何事もなかったかのように次の日の朝を迎える。
ジムでハジけすぎたのか、少し疲れが残っている。
普段からちょくちょく行ったりはしているので、しっかりケアをして筋肉痛は回避している。

昨日のことは妄想だったのかもしれない・・・?
千代「ね・・・え・・・い、今も・・・いるの・・・?」
おずおずと小さな声で空中に話しかける。
???「我のことか?」
ハンガーに掛かっているマントから黒い影が頭を出す。
???「わかりにくいな。『隠者(ハーミット)』とでも呼んでもらいたいものだが?」
どうやら黒い人影は呆れているわけでもなく、はたまた苛立っているわけでもなく、千代の気持ちを汲もうとしているようだ。
千代「じゃ・・・じゃあ・・・『クロ』で・・・いい・・・かな?」
コミュニケーションをとるがゆえ、名前が無いとこちらも不便だ。
クロ「構わんぞ。
しかしやっとまともに会話ができた。気分は落ち着いたのか?」
積極的に話しかけられ、千代は思わずたじろいてしまう。
枕元のスマートフォンに手が触れる。
ディスプレイには8時10分と映っている。
・・・・・・・・・
千代「お、あ、あ、ちっ・・・遅刻・・・!!」
布団から飛び起き着替え始める。
クロ「どうした、なぜそんなに慌てている?」
千代「ガッコ・・・チコク・・・!!」
クロ「オイ!!うわっ」
マントを羽織る時に顔だけ出していたクロは振り回されてしまう。
必要なものだけを持ってドタドタと玄関に向かう。
百合恵「おっ、ネーちゃんが遅刻なんて珍しいじゃん?」
同じく遅刻確定にも関わらず余裕綽々の妹、百合恵が靴を履いている。
百合恵「パン咥えて走れば~?」
千代(悪いけどジョークに付き合っている暇はないの!!)
一言も言葉を返すことなく家を飛び出した。

当然、無慈悲にも校門は閉まり、体育教師が構えている。
しかし、彼女の「隠者」としての才能はここで生きる。
体育教師は背丈の低い金髪の女生徒と話している様子だった。
女生徒「・・・・・・んで遅刻とバイトが関係あんのよ~。」
体育教師「馬鹿者!!高校生の本来すべきことは机に向かい学ぶことだ!!
そんなこと小学生でも知っているぞ!!何度言えばわかる!!・・・・・・」
よくあるありきたりな説教を横目に校門の鉄柵を乗り越える。
本来なら「何してるんだ」と呼び止められるところだが、彼女の場合は全く気づかれることなくその場をやり過ごすことができるのだ。
ホームルームの終わったタイミングを見計らい、あたかも朝から居ましたみたいな顔で席に着く。
男子どもは相変わらすクラスのマドンナの元に集まっているので、よく懲りもせずにと呆れかえるばかりである。

一日が流れていく。授業は聞いていない。
教材で自習する方がはるかに効率的だった。
今の教材は進化しているので、端末を通してマンツーマンで教えてくれる。
技術は進歩しているのに未だに学校は黒板にチョーク。
受け継がれし伝統の、効率の悪いままのマンネリ授業なんてもはや化石だ。
一昔前までは「マンモス化」なんて言っていたものだが、生きていただけマシだったのだろう。

「隠者」としての才能のせいで、授業をサボっているのも全く気づかれない。
机の上で堂々とスマホをいじっている。
最初は机の下に隠していたりしたが、もはやその必要はないのだ。

ぼっちの帰宅準備は速い。
誰よりも早く教室を出る。
今日も誰とも会話をしなかった。
・・・SNSの人間とはしているのだが。

廊下を渡りいち早く学校から出る。
今日も何事もなく帰宅できる。
そう思っていた。
いつもどおりの道をとおり、帰路を急いていた。
しかし、いつもどおりでない人影があった。
別に見たことがないから不自然というわけではないのだ。
不自然なのは、”彼女に気づいている”ということだ。
前髪だけを残したボウズの男子学生だ。
学ランを着崩していて、正直あまり関わりたくはない。
そう思っていたのだが、目が合ってしまったものは仕方がないものだ。
男子学生「おい。」
話しかけられてしまう。
変な汗が出る。
悪寒が走る。
体力に自信はないので、逃げることも考えにはなかった。
あぁ、しょぼい人生だったな・・・と、あきらめの姿勢に入っていた。
男子学生「このへんでおかしなこととか、なかったか?」
ガンを飛ばしてくるわけでもなく、普通に質問をしてきた。
男子学生「変な能力を持った奴とか、見なかったか?」
心拍数が上がる。
そうか。
バトルロワイヤルはもう始まっていたんだ。
いいや、冷静になれ―――ただの厨二病かもしれないじゃないか。
オカルトの可能性だってある。
千代「み、みません・・・・・・でした・・・。」
どちらにせよいろんな意味で あぶない ので、その場をやりすごそう。それが一番だ。
そう考えた。
男子学生「すまねぇ、よく聞こえなかったんだが・・・」
千代(チクショー!!私のバカ!!こういう事態は免れなければいけなかったのに!!)
オタオタとしてしまう。
男子学生の顔が怪訝なものになる。
男子学生「・・・なにか知ってるんだな?そうなんだな?」
男子学生が拳を構える。
千代(ちょっと待った!!黙ってた程度で強硬手段!!?)
しかし、すぐ殴ったりすることはなく手の甲を見せるようにする。
ボシュゥゥウ!!と水が蒸発するような音とともに、男子学生の手の甲に矢印のようなマークが浮かび上がる。
千代「・・・ッ!!」
男子学生「こいつが見えるんだな?なら、てめぇが最初の相手だァ~ッ!!」
拳を振るう。
乾いた拳の音が響く。
千代「・・・ク・・・ロ。」
クロが彼のパンチを受け止めた。
だが、どういうわけか自分の手も痛む。
クロ「危ないな、千代がまともにこれを食らっていたら一発で気絶、リタイアものだ。」
クロは左手で攻撃を防いでいる。
痛むのも左手だ。
どうやら痛みはシンクロしているようだ。
クロが頑丈な体のおかげで、直に喰らうよりは痛みは和らぐようだ。

疑問がひとつ、今のはただのパンチだ。
彼は能力を見せる風にしてまだ何もしていない。
能力がわからない以上近くにいるのはまずい。
それにこっちは能力の使い方を理解していない。
千代(一旦、距離をおかないと・・・。)
逃げるように走り出す。
相手は特に特異な反応はしていない。
体力に自信があるのだろうか。
男子学生(俺と距離を置くことがどういうことか・・・解らせてやる!!)
ある程度距離をとった時点で息が上がってしまった。
クロ「おいっ!!体力がなさすぎるんじゃないか?
戦えないなんて言い出すんじゃないぞ!!」
しめたとばかりに相手はダッシュで距離を詰めてくる。
千代「はぁ・・・はぁ・・・大・・・丈夫・・・はぁ・・・ちゃんと・・・っふぅ・・・収穫・・・は・・・ある・・・はぁ・・・じゃない・・・」
距離が近づく。
男子学生「おらぁ!!」
ストレートパンチが来る。
千代(かわす事に・・・専念する!!)
力任せのストレートパンチはからぶった。
男子学生「まだパワーは使い切っちゃいないぜ!!」
間髪入れず、肘打ちを打つ。
千代(この人、喧嘩に慣れてる・・・ッ!!今度はかわせない!!)
すかさずクロを出してブロックをする。
肘打ちはクロの腕に当たる。
腕の激痛を感じながら吹き飛ばされ、凄まじい威力で塀に叩きつけられる。
千代(これが・・・相手の能力・・・。
すごい威力・・・でも、思ったとおり、近づかないと攻撃できないタイプの能力なんだ・・・。)
追撃しようと相手が踏み出す。
そこに反撃せんとクロを”前に”出そうとする。
だが、予想に反しクロは胸部あたりから両手だけを突き出し、追撃を防いだだけだった。
クロ「千代!!なぜ我を真正面から出そうとしたんだ!!」
千代(???)
クロ「我は”この世の黒い部分”からしか姿を出せんのだ!!
正面は開いていて内側の白い服が見えているせいで出られんのだ!!
斜めから出してくれ!!千代の命令には逆らうことができないから、融通を利かせることが出来んのだ!!」
次の攻撃がまた迫る。
しかし、今度はクロを斜めからだして反撃を行う。
こちらのほうが半身分、リーチが長いために見事に打ち勝った。
まともにクロのパンチを顔にくらい、仰け反る相手に容赦は要らない。
千代「女の子と思って甘く見たのが運のツキよ・・・!!」

「うだらァ~~~~~~~~~~~~ッ!!」

ためらうことなくクロのラッシュを炸裂させる。
男子生徒「かはっ」
ひとしきり殴られ尽くした相手は倒れ、そのまま意識を失った。