「ちょっと、聞いてくださいな!」 女は、事務所に響き渡る大きな声を出し、唾を飛ばす。 「最近帰りが遅いと思って尾行してみたんですよ。そうしたら、ほら!知らない女と二人で歩いているんです!」 大袈裟に写真を突き出された探偵は、タブレット端末から…
「お嬢様、お得意様からこんなものを」 名のある投資家一家の一人娘、亜万宮摩利華は老いた使用人からあるものを手渡された。 埃っぽい布にくるまれていたそれを、彼女は白日のもとにさらす。 「これは……変わった急須ですわね。」 「いえいえ、これは"魔法の…
榎「はぁ~、もうクタクタ…。ラーメン食べたーい」 セイラ「だからなぁ、それじゃあダイエットの意味無いだろって…。」 真姫「ちゃんと頑張ってるからこそ持続しないと」 部活のあと、3人は他愛もない話をしながら下校していた。 ここ最近は大きな事件もなく…
北団地近くの墓地のまわりに張り込もうと、茜色に染まる町を避けながら、日陰を進む。 千代、野鳥花、かるた、レイのチームと、マリ、スバル、宇茶美、メイジのチームに別れている。 もうひとつ、人散らし用のチームがあるらしいが、会うことは無いとのこと…
犯人の足はきっとつかめている。 そう自分に言いきかせている。 犯罪組織"ブレイカー"そして、マカアラシ主犯の"オラクル"。 話のスケールに対しての、自分の無謀さを省みる。 だが、このマントが思い出と共に告げるのだ。 『番長なら進むだろう』、と。 千…
陸上部の部室には重苦しい空気が漂っていた。 胸の奥に、焼け付くような痛みを感じている。 やるせなさで膿んだ傷口を憎しみで焼き潰している。 だが、こういうときこそ冷静にならないといけない。 そのため、今日は部活も捜索もしないことにした。 頭を冷や…
マリはテレビを点ける。 ニュースは「マカアラシ」についての特集が組まれていて、朝ごはんが不味く感じる、どんよりとしたラインナップだった。 最近は行方不明も多く、関連があるのではないかという報道テロップが嫌でも目に入る。 マリ(世間は死人騒ぎで…
セイラ「ハァーッ、ハァーッ…」 顔をつたい、大粒の汗が顎から落ちる。 マリ「ごめん、私のせいで…」 セイラ「ハァ、ハァ…いいんだよっ、別に。陸上部はヤバイことに首突っ込んでんだ。今更だよ。」 マリ「ありがとう。ところでここは?」 セイラは背の高い木…
5月7日(木曜日)新しい情報や手がかりは已然として見つからず、合宿帰ってきた3年生たちと、部活で汗を流す毎日。 3年生の部員はたった3人だ。 気さくな早瀬川電子(はやせがわでんこ)、比較的常識人な川辺檀(かわべまゆみ)、クールだけどどこか天然な荒川凶子…
5月4日(月曜日) 千代「へぇ…この子がみるくちゃん。意外と小さいんだね。」 何かあったときに、名前と顔が一致しないと困るので、千代の方から会いたいと申し出ていた。 ゴールデンウィークが終われば必然的に会うのだが、安全の確認できていない超能力者か…
5月3日(日曜日)桜倉「その怪我どうしたんだよ。」 昨日の帰宅後に、一年生組でゴールデンウィークの予定を立て、その通りに集まったのだが、手足に包帯を巻いている榎の姿は痛々しかった。 榎「えへへー、実はかくかくしかじか、すったもんだでホイホイ…」 …
5月2日(土曜日)ほとんどの部活がゴールデンウィーク休みに入っているなか、陸上部は休みを返上して部室に集まっていた。千代「まだヒントが少なすぎるね…マスコミの続報を待ちながら、インターネットでの目撃情報を探っていくしかないか。なにせ相手の見た目…
あらすじ未来の世界からの差し金によって起きた、壮絶な超能力者同士のぶつかり合い、"アルカナバトル"を終えた藤原千代(ふじわらちよ)は、その秋から陸上部のマネージャーになり、春には、愉快な後輩たちを迎えた。 マネージャーになりたての頃にはよそよそ…
歪曲して、世界の狭間に呑まれて行く番長を見送った四人。 サクリファイス「終わったんだな。」 跡形もなくなって、元からそこになにもなかったかのように風景は広がっている。 ミツクビ「偶然かしらないけど、カインドみたいなところにたどり着いちゃったニ…
不適な笑みが、フードの暗がりのなかに覗く。 相変わらず男か女かわならない声だし、顔立ちまで中性的だ。 仮面の男「おら、連れてきたぜ。」 コッパ「ご苦労様。二人はもう好きにしていいよ。」 優しくて穏やかな甘い口調で、二人に退場を促す。 仮面の男「…
マドロシア「な、なんだ。1つ的が増えただけか?」 動揺していたのが馬鹿みたいだ、という風に振る舞う。 番長「千代…。これはいったい…?」 千代「これはね、ミツクビちゃんを逃がしたりしてくれていた大臣が持っていたアーツなんだけど、効果は見たままだよ…
番長「全快はまだ遠いか…。」 目は覚めたものの、疲労と気だるさが枷となって体の自由を奪っている。 麗「しっかし、派手に散らかしてくれたよな。」 復興のために忙しなくなっている町を、遠巻きに眺めながら言う。 番長「他人事のように言うな。手伝わなく…
※これはおまけです。読まなくても特にストーリーに支障はありません。※19XX年 7月22日広い海、ただ一匹だけ、ひときわ巨大な鮫がいた。 鮫は、片目がつぶれていた。 近辺の港町の人々の話をきくと、その鮫は、金銀財宝や、可憐な乙女に目がなかったそうで、…
麗「はぁ…。はぁ…。ようやく数が減ってきたな…。」 夕日が影を伸ばし始めた頃、エリオットは増殖力を弱めていた。 アリスの鮮やかな太刀筋のお陰もあり、なんとか難を逃れられる兆しが見え始めた。 だが、異変に気づいたのは、地平線に太陽が触れ始めた頃だ…
……………………。酷く重い微睡みをやっとのことで飲み込めそうなのに、呼吸をするためだけに全力を尽くしているんじゃ仕方がない。 何度踏ん張りを利かせても、夢のなかにズルズルと引き戻されるもどかしさ。 誰もいない。 自分がいるとはわかっていても、自分が居…
番長は一向に目を覚まさないが、それはもう仕方のないことだと割り切ってしまわなければならないな、と感じていた。麗「なぁ、やっぱり移動しねぇか?」寒さに震えながら、そう切り出した。ブリンク「危険です。もうすでに囲まれている可能性だってあるのです…
ブリンクは太い蔦のドームを作り出す。 たが、空が曇っているせいか、それとも下が砂地なせいなのか、うまく成長できずにその場を覆うまでには至らず、花瓶のように小さい口を開けていた。 その中で、サクリファイスと番長は生命力を使い果たし、倒れていた…
一閃。 翻る太刀筋は夢か幻かと空を薙いだ。 番長の胸元のボタンが真っ二つになり、小さな音を立てる。 アリス「気に入らないねぇ。 …いや、一撫でで御せぬもまた優雅か。」 それは蝶か鳥か、はたまた鮪や烏賊か。 余りの速さにその剣閃は風の筋を撫でる様だ…
全員が船に登り終えると、待ってましたと言わんばかりに、錨が上がる。 誰も甲板に出ていないはずなのに、ひとりでに船は動いている。 サクリファイス「船自体がアーツってことか?」 ブリンク「でしょうな。…ですが、すぐに危害を加えて来ないのが不気味です…
サクリファイス「うおぁぁぉぁぁぉあああ!!」 釣り下がる水柱を失った彼はものすごいスピードで落下して行く。 それを慌てて麗のアーツの風で受け止める。 サクリファイス「確実に死んだと思った…。」 麗「安心しろ、俺たちはもう死んでる。」サクリファイス…
とうとう、落ちてくる水塊は気球ほどに達し、少し押し流されるまでに強くなっていた。この唐突な襲撃に、街の人間は混乱して右往左往している。番長「・・・このままじゃ、いたずらに体力を消耗するだけだ!!」麗「空路はどうだ?」ブリンク「全員を持ち上げるこ…
この街には様々な娯楽施設がある。 その中でも、一行が目当てにしていたのは、カジノもどきの集会場だ。 大層な設備がないため、主にポーカーやチンチロリンなどの簡単な道具を使って行えるゲームが主だ。 この世界では金品の価値が微妙なため、賭けるのは話…
番長は眉間にシワを寄せて理解し難い状況を理屈付けようとしていた。夢の中に閉じ込められたという彼の言い分もおかしいが、まず目の前にいる麗が自分の妄想なのか、はたまた本人なのか。その答えは、閉じ込めた主から明かされることになった。ジェイ「あ、…
一晩中歩き通したが、幸か不幸か、サキューの張っていた罠にあらゆる人間が引っかかってしまっていたため、こんなに見晴らしの良い平原だというのに、行き違うものの一人もいなかった。逆に言うと、森にはたくさんの迷子がいた。だが、大抵はこっちを見るな…
刃を伝い落ちる赤の雫。硬直する。サクリファイスは喉の奥に空気をつまらせて、声も出せない。サキューは後ろに飛んで姿を消した。サクリファイス(・・・そうだ、クリフォートから持ってきたクリスタルがあるじゃないか。)うろたえてなどいられない、と刃を抜い…